セラピストたちが語りたがらない10の事実 ウォール・ストリート・ジャーナル

[image]David Pintor

 1.「診療費を見たら不幸な幼少期を忘れられるかもしれない」

 米国医師会が出版する精神医学専門誌JAMAサイキアトリーによると、米国では精神的な助けを求めている人の40%がソーシャルワーカー、精神科医、精神分析医の診療を受けるという。しかし、こうした診療は決して安くはない。決まった診療費というのはないが、セラピストたちは1時間で75ドルから250ドルまでの幅があると話す。ウィスコンシン大学マディソン校の精神医学の臨床学教授、ブールス・E・ワムポルド氏が審査した調査によると、米国人は実際に、あらゆる種類の精神療法――人間関係カウンセリングから認知行動療法まで――に年間100億ドルほどを費やしているという。

 2.「私はいかなる研修も受けていないかもしれない」

 資格を有する精神分析医や精神科医、免許を受けた臨床ソーシャルワーカーになるには数年間の研修が欠かせないが、占星学や哲学の夜間コースを受講した人が自らをセラピストと称することを防ぐ手立てはほとんどない。セラピーという言葉は、多くの職業や問題を含む包括的用語なのだ。スクラントン大学の心理学の教授、ジョン・C・ノークロス氏はセラピーを職業的というよりはむしろ説明的な言葉だと指摘する。実際のところ、誰しもが自分のことを「セラピスト」と宣伝し、名刺にその肩書を入れ、ウェブサイトを開設して人々が電話してくるのを待つことができる。「精神衛生のサービスは、自分が住んでいる州から開業免許を受けている専門家から受けるべきだ」とノークロス氏は提案する。

 3.「しゃべり続けるのはやめてほしい」

 1回につき45分から60分、患者の話を聞くのがセラピストの仕事だが、それがいつも簡単なこととは限らない。というのも、特にセラピーを受けている人たちは、その日にあった些細なことにイライラしがちで、本当の問題ではなく、それについて長々と話し続けるからだ。ユタ州ソルトレークシティーにあるワサッチ・ファミリー・セラピーのオーナーで代表を務めるジュリー・ハンクス氏は「ときおり、心の底から退屈することがある」と話す。そうしたごくまれな退屈にも良い面がある。何かがうまくいっていないということをハンクス氏に教えてくれるのだ。そんなとき同氏はこう自問する。「この患者へのアプローチをどのように変えるべきなのか」

 患者ではなく、セラピストの方が本当の問題に適切な注意を払っていないということもまれにあるのだ。

 4.「あなたが私を必要としている以上に、私はあなたを必要としている」

 数回の診療後、セラピストが診療の追加を勧めることがよくある。だが患者はそこを離れるときを知らせる合図に気付くべきだと業界関係者は言う。たとえば、「セラピストがあなたを金銭的に必要としている」と感じたり、自分では良くなったと感じているのにさらなる診療を押しつけてくるときは「セラピストを代えた方が良い」とハンクス氏は言う。大半のセラピストは本気で他人を助けたいからこの職業に就いているが、不景気のせいで患者を手放しにくくなっていると同氏は指摘する。経営難に陥っている――または別の患者で空き時間を埋められない――セラピストは特に既存の患者から追加の診療費を搾り取ろうとするかもしれない。

 5.「セラピーが必要なのは私の方かもしれない」

 自分のセラピストは自分と同じくらい多くの問題を抱えていると不満を漏らす患者が後を絶たない。たとえばある患者の診療が終了したとき、セラピスト自身が共依存関係の兆候を示す場合がある。ニュージャージー州ウェイン在住の家族カウンセリングセラピスト、キャシー・モレリ氏がニューヨークのセラピラストに、結婚してニュージャージーに住むのでもうこちらには通えないと告げた時、そのセラピストはモレリ氏のために喜ぶどころか、40キロぐらいの距離で通えなくなるのはおかしいと言った。「そのセラピストは夜なら診療を受けに来られるはずだと散々文句を言った。とても奇妙だった」とモレリ氏は振り返る。

 6.「朝のランニングにも同じくらいの効果があるかもしれない」

 ちょっとした運動にも大きな効果がある。『Exercise for Mood and Anxiety(気分や不安のための運動)』を共著した南メソジスト大学の心理学の准教授、ジャスパー・スミッツ氏とボストン大学の心理学者、マイケル・オットー氏によると、軽度から中等度のうつ病に対する定期的な運動には認知行動療法に似た効果があるという。両氏は運動と精神衛生に関連した多くの集団ベースの研究や臨床研究の結果を分析してこの結論に至っている。

 7.「患者にさせているからといって自分がする必要はない」

 大学のプログラムや州の認可機関によっては、精神衛生の専門家にセラピーを受けることを義務付けているところもあるが、これは全国共通のルールではない。セラピストが開業前に精神療法を受けることを義務付けていない州にはユタ州やカリフォルニア州などがある。自らの施設で働くセラピストにこれを義務付けているハンクス氏は、患者が経験していることを理解するためにもセラピストがカウチに寝そべることは非常に重要だと話す。「自分が進んでやりたいと思わないことを、患者にさせるわけにはいかない」と同氏は言う。

 8.「あなたの秘密が漏れることは(それほど)ない」

 ほとんどの患者は診療内容に関して秘密が守られると思い込んでいる。ところが、こうした診療内容は公にされることが意外と多い。患者が配偶者や同僚による心や精神のダメージを主張している場合、離婚訴訟や雇用紛争の証拠の一部としてセラピーの記録は公になり得るが、セラピストたちによるとこうした法律も州によって異なっているという。

 9.「私はあなたの力になるが、保険はきかないかもしれない」

 健康保険会社はカバーするセラピーの回数を制限することができ、顧客が完全に良くなる前に、診療をしきりに終わらせたがるかもしれない。マサチューセッツ州アーリントンの臨床ソーシャルワーカー、ジョセフ・ウィン氏は診療費の支払いを保険に頼るのは患者にとっていつも最大の利益になるとは限らないと指摘する。「保険会社は患者やセラピストが適切と感じることとは関係なく決定を下す」と同氏は言う。業界団体、米国医療保険協会の広報担当者、スーザン・ピサノ氏によると、追加の診療の費用を提供しないという保険会社の決定に納得できなければ、顧客は審査を請求することができるという。

 10.「時間が来たので薬を出しましょう」

 複数の研究は、精神衛生問題の治療において薬剤の使用が急増してきたことを示している。米国医師会が発行する医療専門誌に掲載された2008年の研究によると、2005年にすべての患者に対して会話療法を用いている精神科医――ソーシャルワーカーやその他のセラピストと違って薬の処方が許可されている――の割合は1996年の19%から大幅に減少してわずか11%だった。同期間に会話療法が目的で精神科医を訪れる患者の割合もやはり44%から29%に減少している。その研究では、精神科医が保険会社から受け取る診療報酬は、45分間の精神療法よりも15分間の処方診断の方が多いということもわかった。