うつの原因と症状

うつ病のはっきりした原因は未だ不明ですが、うつ病が発症しやすい要因はたくさんあります。家系(遺伝性)、薬の副 作用、つらい出来事(特に喪失にかかわること)など、さまざまな要因が考えられます。うつ病は性格的な弱さを反映するものではなく、人格障害や小児期のト ラウマ体験、親の育て方の問題などを反映しているわけでもありません。うつ病は特に大きなストレスがなくても発症したり、悪化したりすることがあります。

遺伝的要因が、多数の要因のうち一因となることもあります。遺伝的要因は、神経細胞の情報伝達を助ける物質(神経伝達物質)の機能に影響を与えることもあります。セロトニン、ドパミン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)はうつ病に関与する神経伝達物質です。

 

一生の間にうつ病を発症するかどうかは、社会的階層、人種、文化とは関係がないようです。しかし、性別は関係してい ます。女性がうつ病になる割合は男性の2倍ですが、その理由は完全にわかっているわけではありません。身体的な要因のうち、最も大きく関係しているのがホ ルモンです。月経前や出産後にはホルモンレベルの変化が、女性では何らかの役割を果たしており、気分の変化をもたらしている可能性があります。また女性の 場合、気分に影響を与える酵素の濃度が高くなることがあります。女性によくみられる甲状腺機能の異常も、うつ病の一因と考えられます。

一過性うつ病にかかった人は、特定の状況に対して一時的に抑うつ状態に陥ります。

  • 休日(ホリデーブルー)
  • 愛する人の命日など意味のある記念日
  • 月経前(月経前症候群、月経前不快気分障害[抑うつ状態が深刻な場合])
  • 出産後2週間(マタニティーブルー、産後うつ病[抑うつ状態が深刻な場合])

このような反応自体は正常ですが、うつ病の素因がある人を除いて、抑うつ状態が重症化して長引くことはありません。 うつ病はさまざまな体の不調を合併したり、その誘因になります。また、体の病気や障害が直接的な原因になる場合(甲状腺の病気がホルモン量に影響するな ど)と、間接的な誘因になる場合(関節リウマチが痛みや障害を引き起こすなど)があります。しばしば、身体疾患によって直接的にも間接的にもうつ病が引き 起こされます。たとえばエイズの場合、原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)が脳に損傷を与えて直接的にうつ病を引き起こすことがあります。また、エ イズがその人の人生全般にマイナスの影響を及ぼすために、間接的にうつ病が生じることもあります。

処方薬が原因でうつ病になる場合もあります。理由は不明ですが、クッシング症候群のように体内でコルチコステロイド(副腎皮質ホルモン)が大量に分泌され る病気では、このステロイドが原因でしばしばうつ病が引き起こされます。しかし処方されたコルチコステロイド薬が軽い躁状態を起こす傾向を示したり、まれ に躁病の原因となる傾向があります。ときとして、薬をやめるとうつ病を発症することがあります。

さまざまな精神疾患もうつ病の素因となります。これには一部の不安障害、アルコール依存症、薬物などの乱用による障害、統合失調症などが含まれます。うつ病を発症したことがある人は再発の可能性が高くなります。

 
うつ病の誘因または原因

病状

脳や神経系の疾患

脳腫瘍

初期の認知症

頭部外傷

多発性硬化症

パーキンソン病

睡眠時無呼吸症

脳卒中

側頭葉に影響を与えるけいれん発作(複雑部分発作)

腹部の癌(卵巣癌、大腸癌)

全身に広がった癌(転移癌)

膵癌

結合組織疾患

全身性エリテマトーデス(ループス)

ホルモン障害

アジソン病

クッシング症候群

糖尿病

副甲状腺ホルモンの過剰

甲状腺ホルモンの欠乏や過剰

下垂体ホルモンの欠乏(下垂体機能低下)

感染症

エイズ

インフルエンザ

伝染性単核球症

梅毒(晩期)

結核

ウイルス性肝炎

ウイルス性肺炎

栄養に関連した病気

ペラグラ(ビタミンB6欠乏症)

悪性貧血(ビタミンB12欠乏症)

アルコール

アンフェタミン(amphetamine)離脱症状

アムホテリシンB

抗精神病薬

一部のベータ遮断薬

シメチジン

経口避妊薬

コルチコステロイド薬

サイクロセリン

ホルモン(エストロゲン)療法

インターフェロン

水銀剤

メチルドパ

メトクロプラミド

レセルピン

タリウム

ビンブラスチン

ビンクリスチン

症状は、数日または数週間にわたって徐々に発症するのが典型で、きわめて多岐にわたります。たとえば、うつ病になりかけているときには動作が鈍く悲しげに見えたり、怒りっぽく不安そうな様子になったりします。

うつ病になっている人の多くは、悲しみ、喜び、楽しさといった感情を普通の形で感じることができません。極端な場合 には「世界が色を失い、生命がない」ように感じられます。うつ病患者は強い罪悪感や自己否定の考えにとらわれ、ものごとに集中できなくなることもありま す。絶望感、孤独感、自尊心の低下が生じます。また、しばしば優柔不断になって引きこもり、次第に無力感と失望感を覚え、死や自殺を考えるようになりま す。

うつ病の種類によって症状は異なります。

  • 緊張病性の特徴を持つうつ病:引きこもりが顕著になります。思考、話し方、動きが鈍くなり、自発的な行動を一切しなくなります。子供やペッ トの面倒を見なくなり、自分でものを食べることさえしなくなります。聞いた言葉をすぐに反復したり(反響言語)、人の動作のまねをしたり(反響動作)する 人もいます。
  • メランコリー型の特徴を持つうつ病:いままで楽しいと感じていた活動から喜びが得られなくなります。動作が鈍く悲しげに見え、引きこもりがちになります。無口になり、食事をとらなくなって体重も減少します。顔に感情が表れなくなります。患者は、過度に不釣り合いなほど罪悪感を覚えます。
  • 精神病性の特徴を持つうつ病:しばしば、自分が許しがたい罪や犯罪を犯してしまった、あるいは不治の病や恥ずかしい病気にかかっている、見 張られているとか迫害されているなど、誤った思いこみ(妄想)をします。幻覚を見る人もいて、たいていの場合、自分の数々の悪行を責める声や死を宣告する 声が聞こえるというものです。少数ですが、棺や死んだ親族を見たと思いこむ人もいます。
  • 非定型うつ病:このタイプのうつ病にかかった人は、特に夜間に不安そうでおびえた様子を示します。食欲が亢進して体重が増加し、最初は眠れ なかったのが長時間眠るようになります。自分の主張が受け入れられると快活になりますが、批判されたり拒絶されたりすると過敏に反応する傾向があります。 興奮する場合もあります。とても落ち着きがなく、両手をもみ合わせながら絶え間なく話し続けます。

うつ病の人の大半は寝つきが悪く、特に明け方などに何度も目を覚まします。食欲不振から体重が減少して衰弱したり、女性の場合は月経が止まったりすることがあります。ただし、軽度のうつ病では過食と体重増加もよくみられます。

体に病気があってあちこちが痛むと訴える場合があります。災難を恐れ、正気を失うのではないかと危惧する人もいます。また、自分が不治の病や恥ずかしい病気(たとえば癌や性感染症など)にかかっていて、他の人に病気をうつしていると思いこんでいることがあります。