うつとアルコール

平成10年から、わが国の自殺者は年間3万人を超え、以来この状態が続いています。国としてさまざまな対策が打ち出される中、当初は、自殺の背景にあるアルコール問題には目が向けられていませんでした。
しかし最近になって、「アルコール・うつ・自殺」の関係が浮かび上がっています。

「自殺予防総合対策センター」が平成19年度~21年度に行なった調査で、自殺者の2割以上が、亡くなる前の一年間に飲酒問題を抱えていたことがわかりました。その中心となる層は40~50代の男性有職者です。
かつ、この人々は平均して2つの精神疾患を抱えており、中でも「アルコール使用障害」と「うつ病」との合併が多く見られました。
4割以上は実際に、うつ病などで精神科を受診していましたが、アルコールに関連した治療や援助を受けていた人は皆無でした。

一方、同センターが全日本断酒連盟の協力を得て実施したアンケート調査では、アルコール依存症者はきわめて高い割合で、自殺念慮や自殺企図を経験していることもわかっています。

海外では自殺とアルコールの関係が、かねてから指摘されてきました。
なぜ、アルコールが自殺を引きよせるのでしょうか?

一つは、急性の影響です。
「いっそ死んでしまいたい」と思うようなつらさを抱えることと、死ぬための行動を実際に起こすこととの間には、大きな隔たりがあります。けれどアルコールは脳の機能を抑制することで、思考や判断能力を低下させ、一足飛びに最期の一線を踏み越えさせてしまうのです。
実際に、アルコール問題を抱えた中高年男性自殺既遂者の多くが、最期の致死的行動を飲酒酩酊の状態で行なっています。

もう一つは、慢性の影響です。
これまで述べてきたように、アルコールは長期的には抑うつ状態を作り出します。加えて、飲酒にまつわるトラブルが続くことで、周囲との関係が悪化し、本人は孤立を深めていくため、自殺のリスクをますます高めてしまうのです。アルコール依存症が「慢性自殺」とも呼ばれるのは、このためです。

自殺防止のためにも、うつ病対策だけでなく、飲酒問題への対策が欠かせません。