類型としての人格障害

セオドア・ミロンの反社会性人格障害についての仮説によると、『貪欲なタイプ・評判を守るタイプ・危険への覚悟をしているタイプ・放浪的なタイプ・悪意あるタイプ』の5つのタイプに分類することが出来ます。


『貪欲なタイプ』とは、自己愛と嫉妬心が極端に強くなっている反社会性人格障害であり、『自分の不幸な人生に対する復 讐』を目的にして貪欲に他人から財産・権利を搾取し社会にダメージを与えようとします。


自分に不幸な境遇を与えた社会への復讐心と自分よりも幸福な生活を 送っている他者への嫉妬心によって、貪欲なタイプの人は『支配欲・所有欲』を高めていきますが、決してその欲望が満たされることはありません。


社会の秩序 (安全)を揺らがして他人の財物を所有することで『人生への復讐』を達成しようとしますが、貪欲なタイプの人が本当に求めているのは『他者からの尊敬と愛 情・社会的に高い地位と権力』なので、不当な犯罪や攻撃、嫌がらせなどの手段によっては彼らの欲求を十分に満たすことは出来ないのです。


貪欲なタイプの反 社会性人格障害は、際限のない物欲や支配欲を満たそうとして必死に努力し他人を蹴落としながらある程度の社会的成功を手にすることがありますが、『人生の 無意味さ・自己アイデンティティの空虚・他人への憎悪』を抱えているのでなかなか純粋な幸福を感じることができないという問題があります。社会への復讐心 や他者への不信感から生まれた貪欲さが弱まってきた時に、社会的成功に見合うだけの幸福感・満足感を感じられる可能性があります。


しかし、他人を信頼して 社会の常識的な価値観に合わせるということは、『他者を支配して奪い取ること』を生き甲斐にしてきた反社会性人格障害の人にはとても難しい課題なのです。


『評判を守るタイプ』とは、物質的な所有欲や他者への支配欲よりも『マイノリティ集団における名誉と敬意』を重んじる 反社会性人格障害であり、何ものをも恐れない自分の勇敢さと強靭さ、恐ろしさを同類の仲間に認められることに全てを賭けています。


評判を守るタイプの人 は、所有欲や支配欲を満たすために衝動的な行動をするのではなく、『自分がいかに勇敢で強いのか』を仲間に対して証明するために衝動的で危険な行動をする 傾向があります。


法律を破って犯罪を実行するのは、自分が法の制裁や国家権力を何ら恐れていないことを証明するためであり、対立する敵対グループに先陣を 切って突入していくのは、自分が敵対グループの暴力に負けない勇気と根性を持っていることを明らかにするためなのです。


そのため、彼らは違法行為の結果手 に入れる利益や商品などに殆ど関心はなく、仲間たちが自分の行動をどのように評価しているのかという評判・名声を非常に気にしています。


彼らは『自分が誰 からも承認されないという孤独感』を抱えており、自分を尊敬して評価してくれる仲間のためであれば、法的に処罰されようが生命を失おうが関係ないというほ どの覚悟を決めていることもあります。


評判を守るタイプの最大の特徴は、『自分を評価しない一般社会』ではなく『自分を評価してくれるマイノリティ集団』 のためにどんなことでもやってしまうという盲目的な勇敢さ(無謀さ)にあります。


『危険への覚悟をしているタイプ』とは、誰もが恐怖して逃げ出してしまうようなリスクに対し敢えて挑んでいくような反 社会性人格障害であり、『死を恐れない態度・破滅を恐れない覚悟』に自己アイデンティティの全てを賭けているという特徴があります。


『評判を守るタイプ』 と『危険への覚悟をしているタイプ』には、誰もが恐怖する危険な行動を敢えて実行するという共通性がありますが、評判を守るタイプは『自分を評価してくれ る仲間』のために危険な行動をするが、危険への覚悟をしているタイプは『無意味な人生に意味をもたらす刺激』のために大きなリスクを冒します。


しかし、両 者ともに『リスクに対する報酬』にはほとんど無関心であり、『自分がどれだけ勇気と力に満ち溢れた存在であるか』を実感するために敢えて深刻なリスクを 取って行動するのです。


危険への覚悟をしているタイプの反社会性人格障害は、自分の生命にも人生にも殆ど関心がなく、『本質的に無意味な自分の人生』がい つ終わっても構わないという虚無感を絶えず抱えているので、誰もがしり込みするようなリスクに対して決してひるむことがないという特徴を持っています。


状 況や課題がよりリスキーであればあるほど、危険への覚悟をしているタイプはやる気をそそられるようになり、大きなリスクを乗り越えた自分に周囲の人たちが 目を丸くして驚き呆れる様子を見て、この上ない満足感を得ていると考えられます。


『放浪的なタイプ』とは、既存の社会的・職業的制度や文化的価値観に適応することのできない反社会性人格障害で、『社 会的な制度・仕事・義務』のすべてからできるだけ遠くに逃走しようとする特徴を持ちます。


社会の平均的なライフスタイルを嫌悪していて、就職(職業)や結 婚(家庭)に対する関心も低く、その時その時を場当たり的に生きていこうとしますが、経済的困窮や社会的差別の問題に突き当たることが多くなります。


放浪 的なタイプの人は他のタイプの反社会性人格障害と比較すると『社会への憎悪・他者への不信』はそれほど強くありませんが、『社会制度的な枠組み・規則正し い生活習慣』の中に適応させられることを非常に嫌います。


社会における平均的生活(安定した生活)からのドロップアウト組であり、社会の周縁的環境を流浪 する人たちですが、『自分の人生(将来)に対する関心の低さ・安定した生活への適応能力の不足』などの問題があるので経済的に貧窮してホームレス化するリ スクを孕んでいます。


所有欲や支配欲といった反社会性人格障害の特徴をあまり持っておらず、基本的には『社会や他人に束縛されない自由・自分の好きなよう に行動できる自由』に最大の価値を置いています。


『悪意あるタイプ』とは、反社会性人格障害に見られる『社会への復讐心・他人への憎悪・衝動的な破壊願望・貪欲な所有 欲』が最も強いタイプであり、社会常識や規範意識への飽くなき抵抗と他人からの不当な搾取に生き甲斐を見出しています。


幼少期に受けたトラウマ的な体験な どの影響で『他者への根深い不信感と嫉妬心』を抱いており、他人の行動に『妄想的な悪意』を見出しても『ありのままの善意』を見出すことはありません。


妄 想性人格障害のように『他人が自分を罠にはめて痛めつけようとしている・他人は自分から搾取することはあっても何かを与えてくれることはない・他人の優し さや同情は偽善的な計略に過ぎない』という被害妄想を持っているので、他人の親切や善意を素直に信じることができなくなっているのです。


悪意あるタイプの 人は、悪質な嘘をついて他人を騙そうとし好戦的に他人と戦って利権を奪い取ろうとしていますが、他人に不当な危害や損失を与えても罪悪感や後悔の念を抱く ことはなく残酷な復讐に快感を感じています。


それは、他人への悪意や攻撃(加害)を『過去の自分の不幸や屈辱』に対する当然の補償(報酬)だと認識してい るからであり、社会への復讐心と他者への嫉妬心によって彼らの不安定な自己アイデンティティが支えられているからです。


悪意あるタイプの反社会性人格障害 では、『自己と他者の相互信頼的な関係性』をリアルなものとして深く体験できない限り、『他者に対する残忍な行動・衝動的な加害行為(搾取と支配)・他者 の苦痛に対する共感性の欠如』が改善されることはないと言えます。

(反社会性人格障害から)