情緒不安定な人格を持つ症例

 WHOのICD-10国際疾患分類では、境界性パーソナリティ障害という用語の代わり に、「情緒不安定性パーソナリティ障害」という用語を使っています。感情が不安定で、わずなかことで激怒し、自他を害する言動を繰り返します。衝動型と境 界型の2つに分けられていますが、衝動性と自己統制の欠如を共通の特徴としています。


 この情緒不安定ですが、中核には、未熟な性格と自己同一性の問題があるといわれています。自己同一性の問題とは、自分に自信がもてない、仕事など、生活の 方向が定まらず能力を生かせる場が少ない、支えになる仲間が少ないといった、自分自身や他者との関係性の問題です。内心には、自分の人生への虚無感、空虚 感があります。


 周囲の人もまた、この人は何ものなのだろうという疑問に駆られます。周囲からは、次のような傾向が見て取れます。


①後先を考えない言動。
②衝動行動への制止や非難に対する反発・反撃の態度。
③怒りや暴力の突発。
④耐えること、待つことが困難。
⑤不安定かつ気まぐれな気分。


 不安定な感情に基づいた言動、その言動の結果を引き受ける自己統制の欠如、その結果、衝動的行為が頻発し、周囲を悩ませますですが、そうした指摘を受けると、強い怒りが突然起こり、しばしば衝動的な行動に至ってしまいます。関係性の改善どころか、火に油を注ぐ結果になってしまうのです。必然的に、対人関係も流動的になります。


  援助には、限界の設定が必要です。このパーソナリティ障害の人は、深い愛情飢餓を抱えており、それを援助者の優しさや愛情で満たそうとすることには、限界があります。援助者が力尽き、ギブアップしてしまうのです。


 行動と感情のコントロールのためには、ダメなことはダメとはっきり告げ、きちんとした社会の枠組みや制限を示して、それらを守ってもらうことが不可欠でしょう。


  最終的な克服には、本人が、自分の問題を自分で引き受けていようと決意することです。自分の感情は自分の責任として引き受け、自分の気分を優先せず、社会 人としての約束事を果たし、うまくいかないことがあったときにも他人のせいにして逃げ出さないこと、対人関係から利益だけを得ようとして傷つき、逃げ出す のではなく、逃げずに踏みとどまり、人に与えることを覚えていくこと、本人がその意味を知った時、初めて成熟の扉を開くのかもしれません。

(自分を大切にする心理学)