2つのうつ病
現代のうつ病は大きく2つに分けられます。
1つは、気分が落ち込み、あらゆる物事に対する興味がなくなり、喜びを感じることがなくなってしまうような、一般的なうつ病のイメージそのものです。
このタイプは、病前は責任感が強く、秩序を守り、時には少々頑固で、気分が落ち込むことは「弱いこと」だと感じてしまい、うつ病であることをなかなか認められないような方々の場合が多いです。
もう1つは、全般的に気分は落ち込んではいるものの、遊んだり外出すること自体にはさほど苦痛を感じることはなく、積極的に受診をして「うつ病」の診断書を求め、休職中に転職のための資格試験の勉強をしているといった、一見「わがままに見えてしまう」イメージのうつ病です。
こちらは、自分は正しく、責任は他人にあると考えがちで、理想を追い求め過ぎているようなタイプの方々であったりします。
前者は、誰の目から見ても精神疾患と認められやすいのでカウンセリングが必要ということに異論はないと思います。
問題なのは後者で、果たしてそんなわがままな人にカウンセリングが必要なのか、甘やかしていいのか、ということが最近話題となっていることが多いようです。
わがままとは何でしょうか、甘えとはなんでしょうか。
本人はなんの心配事もなく、幸せそうにしているでしょうか。
ほとんどの方の場合、うまくいかない感じを持たれて悩まれています。
責めて追い込んで問題が解決することも確かにあるのでしょうけれど、それには相当のリスクが伴います。
2つのうつ病のうち、「どちらが本物のうつ病か」といった議論は研究者にまかせておき、私たちは目の前の悩まれる方々の支援をしていきたいと考えています。
うつ病のカウンセリング
当ルームでは、4つのカウンセリング技法を段階的・選択的に用いて、計画的なカウンセリングを行っています。
それは、うつ病の方にも同じく適用されます。
うつ病の方に、いきなり家で取り組む課題を出したり、自分の苦手な部分にばかり直面するような心理療法はできません。
「うつ病には認知(行動)療法が有効」という情報ばかりが先行していますが、実際の認知(行動)療法では、支持的技法(例えば傾聴等)が重視され、あるいは具体的に認知的技法を用いる前提として含まれています。
当所では、それをわかりやすく、支持的・認知的・行動的とに区別しており、うつ病のカウンセリングとしてはスタンダードな取り組み方であると考えています。
「うつ」に関する言葉の違い
「うつ(状態)」と「うつ病」の違い
単にうつと言う場合とうつ病は違います。
例えば、うつを頭痛に、うつ病を風邪に例えるとわかりやすいようです。
風邪ではなくても頭痛は起こりますが、熱や咳などの症状も出れば風邪と診断されるでしょう。同じように、うつ病もうつという症状だけでなく、億劫感や何事にも興味がなくなるといった幾つかの症状が加わってはじめてうつ病と診断されます。
つまり、うつは単一の症状名でうつ病は総合的な診断名(病名)という違いがあるのです。
「うつ(状態)」と「抑うつ(状態)」の違い
実のところよくわかりません。むしろ、どのような違いがあるか知っている方がいましたら教えてください。実際の現場では微妙に区別して使っています。
うつと言う場合は、うつ病の症状の一つという意味で使い、抑うつと言う場合は、うつ病ではない精神疾患に付随する気分の落ち込みを意味していることが多いような気がします。
あるいは、うつと言う場合は、遺伝的な要因が考えられそうな人に対して使い、抑うつと言う場合は、ストレスフルな環境要因や心理的な要因が考えられそうな人に対して使っているような側面があるとも言えます。
先の例に従うならば、うつは頭痛、抑うつは偏頭痛といったところでしょうか?
偏頭痛は風邪とは関係がないように、抑うつもうつ病とは関係ないという感じなのですが、あまり根拠はありません。
「抑うつ状態」と「抑うつ気分」の違い
抑うつ状態と言う場合は、傍から見てその人が抑うつにあると判断することで、抑うつ気分と言う場合は、当人が感じている抑うつを表します。
つまり、抑うつ状態は客観であり、抑うつ気分は主観であるという違いがあります。
必ずしも両方見られるとは限らず、周りから見れば抑うつ状態でも本人は抑うつ気分を自覚できないことがあったり、本人が抑うつ気分を自覚していても、周りには抑うつ状態に見えないという場合があります。
うつであるかどうかは、本人にも周囲の人にもわからない場合があり、疑わしければ受診や相談をすることが早期発見につながります。
「憂鬱」と「うつ」の違い
「なんだか具合悪い」というのと「風邪っぽい」という違いのようなものでしょう。
憂鬱というのは単なる気分を表す日常用語で、うつというと病気のニュアンスが入ってくると考えておけばそれほど間違いはないはずです。
「鬱」と「うつ」の違い
意味の違いはありませんが、医療分野では鬱と漢字で書くことはなく、うつと平仮名で書くのがスタンダードらしいです。
3分診療ではその方が断然効率的なのでとても納得です。あるいは、医師はドイツ語には詳しい一方で漢字が苦手なのかもしれません。
「うつ病」とは言い得て妙な診断名
鬱という言葉は、そもそも「生い茂る」という意味です(鬱蒼、鬱陶しいなど)。
生い茂っているということは隙間がないとも言えるので、転じて正反対の「塞ぎこむ」という意味も表すようになったみたいです(鬱屈、鬱憤など)。
この2つの意味を持った鬱という言葉が、うつ病に本当にぴったりなのです。
古くから、あるタイプのうつ病になりやすい性格というのが知られています。
メランコリー親和型と言われる性格類型で、「秩序を重んじ、誠実で几帳面かつ熱心なタイプ」などと表現されることが多いです。
そういう人は、度が過ぎてしまうとたまに鬱陶しく感じられてしまうものです。
つまり、一部の塞ぎこみやすい人は、元々はワサワサと生い茂っているような活動的なタイプだということで、こうなるともう「鬱」という言葉以外には言いようがないのではないかということが言いたいわけです。
「○○うつ病」に騙されないように
新型うつ病、老人性うつ病など、最近はいろいろと耳にしますが、どれもあまり信憑性がありません。
唯一、非定型うつ病だけはしっかりとした病態が定義されていますので、覚えておいてもよいかもしれません。
カウンセリングでは、ちょっとした言葉の違いで気持ちが大きくすれ違ってしまうようなことはできるだけ避けなければなりません。
カウンセラーにとって言葉というのは本当に大切な道具なので、言葉の使い方にはこだわっていきたいと思います。また、当ルームでは、うつ病のご家族の相談にも対応いたします。お気軽にご相談ください。